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ご存知の方も多いと思いますが、骨粗鬆症は閉経後の女性に多い疾患で、骨折の危険性が増加する病気です。たとえば、脊椎の骨折や股関節近くの大腿骨頸部骨折などにより、重大な障害を及ぼす場合があります。
骨粗鬆症患者の12%が骨折するとも言われており、整形外科のお医者さんは骨粗鬆症の治療に苦労しているのが現状です。また悪性腫瘍が骨に転移した場合にもその治療にお医者さんは苦労しています。
骨粗鬆症や骨転移した悪性腫瘍の治療には、ビスフォスフォネート製剤が使用されることも多いのですが、この薬が歯科にとって非常に危険な「ビスフォスフォネート製剤が誘発する骨壊死」を招くことがあります。
近年、特にアメリカで、治りにくい骨壊死の患者さんが増えてきていますが、日本でもそういう患者さんが出てきています。
マイアミ大学のロバート・E・マークス教授が2003年にこの「ビスフォスフォネート製剤が誘発する骨壊死」についての論文をはじめて発表し、それからこの症状が注目されるようになってきました。
以下はマークス教授の話を引用させていただきますと、人間の骨は約180日ごとに新しくなります。つまり、古い骨が吸収されて新しい骨になるということです。
これを「骨のリモデリング」と言います。骨によってその速さは異なりますが、歯槽骨は体中のどの骨よりも速くリモデリングが起こるのです。
骨がリモデリングする時、骨の中にある「破骨細胞」が古い骨を識別し、酸でそれを溶かして吸収します。その時ある種のタンパクが放出され、それが骨髄から破骨細胞を分化させます。骨細胞・骨芽細胞は、150日~180日の間、骨の内部に生存して骨を再生します。このように骨は自分自身の維持のために、常に吸収と再生を繰り返す必要があるのです。
破骨細胞の生存期間は14日間ですが、ビスフォスフォネート製剤は骨の吸収を行うその破骨細胞を死滅させてしまう作用を持っています。その結果、骨の正常な生理学的なプロセスを妨げます。つまり、骨の吸収・再生がなければ大理石病を発症し、骨は石灰化して死んだ骨になってしまうのです。
これが「ビスフォスフォネート製剤が誘発する骨壊死」の原因となります。
大腿骨、橈骨、頭蓋骨、顎骨など、すべての骨に骨粗鬆症のビスフォスフォネート製剤は吸収されますが、前述したように顎の歯槽骨はリモデリングのスピードが速いので、ビスフォスフォネート製剤が特に歯槽骨・顎骨に集中し、ターゲットになってしまうのです。
口の中の問題としては、ほとんどの人には歯周病があり、歯槽骨に炎症・感染が起こることです。それによって、壊死した顎骨が口の中に露出し、治らないということがたまにあります。また、下顎の奥歯を抜歯した後に抜歯部位を中心に前後5cm位骨壊死が広がり、大きく顎骨除去をしなければならない場合もありました。
ビスフォスフォネート製剤は、骨に吸収され蓄積していきます。骨壊死を誘発する危険量まで蓄積してから、投与を止めても半減期があるので11・2年は影響が残るのです。静脈注射による投与は、月2回の投与として5ヶ月で危険値に達します。経口投与の臨界点は3年前後で、臨界点に達してしまうと歯科ではインプラントはもちろん、抜歯やその他の手術もほとんどできなくなるので、治療にビスフォスフォネート製剤を使用する場合、お医者さんと歯科の先生は用法、用量、他の薬剤等についてよく話し合い、骨粗鬆症や悪性腫瘍の患者さんを治療してゆく必要が有ります。